「WWDジャパン」編集長 山室一幸の“モードな身辺雑記” ムロブロ

[ FASHION ]

2010-02-22 10:46:48日 更新

20代の頃と思われる故マックイーンのポートレイト。弊社保管

20代の頃と思われる故マックイーンのポートレイト。弊社保管


Vol.07 追悼 アレキサンダー・マックイーン



今週号の「WWDジャパン」は、2月11日に急逝したアレキサンダー・マックイーンへの追悼特集。突然の訃報を受け、過去のコレクション作品の軌跡からマックイーンゆかりの業界人からのコメントなど、編集部スタッフが総力をあげて取材した渾身の特集だ。



アレキサンダー・マックイーンの才能がファッション業界で注目されたのは、90年代後半のロンドンでした。ステージに雨や雪、炎を演出し、血塗りのモデルや義足の障がい者を登場させるなど、様々な物議をかもした彼の存在は、ジョン・ガリアーノとともにロンドン・コレクションの次世代を象徴する“アンファン・テリブル”(恐るべき子供)と称されていた。奇しくもこの才気溢れる二人がパリの2大老舗クチュールメゾンの主任デザイナーとしてデューし、ガリアーノが「クリスチャン ディオール」でマサイ族をテーマにしたニュールックを発表し、マックイーンの「ジバンシィ」が壮大な純白のファンタジーを描いた97年1月の春夏オートクチュールは、「歴史が変わる瞬間」を目の当たりにした感動を取材現場で実感した。



マックイーンにインタビューしたのは、砧の東宝撮影所での「ジバンシィ」来日コレクションの時と、パリに発表の場を移したシーズンの「アレキサンダー・マックイーン」終了直後にアレンジされた

僅か数分間だけの取材のみ。通訳を介さない形でのインタビューだったが、イーストエンド訛りが強いマックイーンの英語は聞き取り難かったものの、「いたずら坊主」のような表情の奥に潜む狂気を秘めたような眼光の鋭さは今でも記憶に残っている。



マックイーンがコレクションで見せる世界観には、この人間心理の深淵を描くようなサイコな狂気に満ち溢れていた。マックイーンの作風は、厳然たる階級社会が存在するロンドンで「伝統と革新」「クラシックとアバンギャルド」という対立軸を描いてきた、それまでの英国デザイナーのアプローチとは全く違うベクトルでの表現手段だった。ジョン・ガリアーノの作品には、自らのファンタジックな世界観を、貴族社会の象徴であるオートクチュールに投影する「異化作用」に逡巡することなく、民族や階級を超えた美への賛歌がその根底にある。対するマックイーンの世界観の根底には、階級意識への飽くなき反骨精神が宿っていたように思えてならない。ロンドンのイーストエンドで労働者階級に生まれ育った「早熟の神童」は、サヴィル・ローで修業を積み、「エンジェルス&バーマンズ」で積んだ舞台衣装の経験をもとに、その比類なき完成度とドラマティックな世界観で、「オートクチュールという名の階級闘争」を続けてきたのではないだろうか。マックイーンの才能は、まさに大英帝国の象徴たるロンドンが抱える社会構造から生まれ育った不世出の天才だった。



ルイス・キャロルの童話に人間の業の深さが潜んでいるように、「狂気を秘めたお伽噺」の語り部であったマックイーンの偉大なる才能に心から哀悼を捧げたい。

(文:WWDジャパン編集部 / 編集長 山室 一幸)




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